新潮文庫伊坂幸太郎の「オーデュポンの祈り」読了。
手が進まないとか言った直後に頑張って書評を。

他にも多くの本を読んでいるのだが、どうしてもこれだけは書きたいので。
ミステリファンには以前より好評な伊坂幸太郎の世界を覗いてみました。

まず設定が異様。
この現代社会で、いまだに誰にも知られていない島が舞台。
しかもその島の住人たちは一人を除いて生まれてから一度も島から出たことがないという。
そして極め付けに喋る案山子。
最早ファンタジーのような世界設定です。
ミステリなのにあまりにも現実から乖離しているとか、要らぬツッコミを入れる人はこの時点で脱落でしょう。

それらの設定を呑み込んだ後、物語は紡がれます。
主人公はつい最近会社を退社し何もすることなくブラブラしていた日常に倦み、発作的にコンビニ強盗を企てた上にあっさり警察に囚われる人物。
彼の持つ過去の傷と現実からかけ離れた島での生活、そして島へとやってくるきっかけとなった警察官の爛れた思想。
それらがリンクする形で話は進んでいきます。

私が読んだ最近のミステリでは珍しく、斜に構えたようなところもなく、わざわざ難しい言葉を選ぶようなところもない作品。
ミステリの部分も、トリックを解いたり証拠を調べたりといった面はなく、どちらかというと登場人物の心理面に重点が置かれて描かれている。
人の想いを描き続けて綴るこの手法に私はすっかり嵌まり込んでしまった。
普段バイトの行き帰りの電車で本を読んでいるため、大抵読み終わるのに1週間程度はかかるのだが、この作品に関しては寸暇を惜しんで読み進め、1日で読み終わってしまった。
是非他の作品も読んでみたいと思わせる傑作でした。
最近読んだ本の中ではトップですね。
森博嗣の新刊も読んだりしていたのだが、現在のところこちらの方が評価上です。
森博嗣もかなり面白かったのだけどね。。

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